グリュエッツィ!ヨーロッパの小さな山国に住むフラウビショフです。
これは、まだヘアビショフのところへ嫁に押しかける前か、チューリッヒにきたばかりの初々しさあふれる頃のお話です。
さて、ヨーロッパ人と自己紹介しあう時、相手の名前を聞いて驚いたりしますか。
子供の頃の私は日本昔話より世界のおとぎ話に夢中になりました。日本史より世界史が、特にヨーロッパ中世あたりまでが理由なく好きでした。
西欧では聖書にちなんだ名前が多いので、英語でもドイツ語でもフランス語でもイタリア語でも同じ名前なこともあります。時には、元は同じでもその言語に応じて変化していたり、音も違っていることもあります。世界史に出てきたカール大帝と呼べばドイツ語、英語ではチャールズ大帝になり、フランス語ではシャルルマーニュでしたよね。
スイスは、4つの公用語がある国で、フラウビショフの住んでいるのはドイツ語圏です。
スイスはヨーロッパの中央に位置しているので、様々な国の人が生活しています。祖父母や両親が移民してきたとか、違う国出身でスイスで仕事をしているという人が大勢います。ですので、周囲の人の名前も多様です。
前置きが長くなりましたが、ここから本題。ある時義理の姉の実家の夕食に招待されたときのことです。
このちかしさだと、ここスイスの今日の感覚だとファーストネームで呼び合います。
さあ、初対面は名前を言って握手を交わします。義姉のお父さんは、70歳を超えた白髪交じりの大柄な紳士です。
「ジークフリートです。初めまして。」
えっ~ジークフリートって人がふつうにいるんだ!私にとってその名前は、バレエ「白鳥の湖」の王子様の名前でしかなかったのです。驚きを隠しながらも、そんなビックネームを一般人にもつけてよかったのね~。私の父は、仁(まさし)だけど、それがイボンヌの場合は、なんとジークフリードとは!心の中はつぶやきの嵐です。
食事中「すいません、ジークフリート。お塩をとっていただけますか。」なんだか言ってみるのに、こそばゆくなりながらも使ってみたものです。
またある時は、イタリア出身の友人のご両親とあったときのことです。「チェーザレです。」と言うのです。えっー 私にとってチェーザレと言えば『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』塩野七生著だったので、この小柄なシニョールもまたチェーザレなのだ、チェーザレという名前はルネッサンス期だけのものでなく、今も現役だったのねえ!
別の義理の姉の娘、つまり姪は、サロメです。そんな妖艶な名前はシェークスピアの登場人物だけが名乗るものだと思っていました。こちらのサロメは、小柄で爽やかな女の子。
フラウビショフは異国の歴史や物語に登場した人物に強い印象をもってしまう傾向をもっているようです。同じ名前を持つ人に会うと、その今まで持っていたイメージと実生活で出会う人物とのイメージのギャップにおもしろおかしくなってしまうのです。はたまた旧友に突然ばったり会ったような気分でもあり、なぜか軽い昂揚感に包まれる私でした。
自分がそのような地理的・文化的なところに飛び込んできたのだから、当たり前と言えば当たり前です。
今は、だいぶ経験もつんだので、当時のようにいちいち驚かなくなりましたが、それでも私にとって歴史上、物語上だけのこととしてイメージして脳に保存していた名前と同じ名前を持つ人と実際にあうと最初は不思議な感覚に陥ってしまうのです。
今はみんながそう呼んでいるので、ジークフリートはシギ、チェーザレは、チェジィとサロメは、サロと私も呼ばせていただいてます。
フラウビショフワールドにお付き合いくださいまして、ありがとうございました。またのご来場をお待ちしております。